霞沢岳 八右衛門沢 左岸尾根

未分類

日程・行動概要:2024年2月19日 2:30西尾根とりつき〜3:00八右衛門沢左岸尾根とりつき〜5:00 P2009m〜12:30霞沢岳〜西尾根〜15:50坂巻温泉

メンバー・学年:K岡Ⅲ、スナメリⅢ

ーことはじめー

 昨年1月、西穂高西尾根を登り切って稜線の向こうに見えた霞沢岳が非常に美しく険しかった。中でも目を引いたのは八右衛門沢周辺の岩壁とリッジだった。八右衛門沢の頭へとダイレクトに突き上げる左岸尾根は険しく、自分にはとても登れそうに見えなかったが、記憶に刻まれることになった。今回の計画はそこから始まったと言える。それから約1年を経て、今なら行けると思えるようになったことに自らの成長を感じた。実際に登ってみれば、ルーファイと、雪や薮の泥臭い登りと、少々の岩登りが要求されるいかにも雪稜らしいルートで、沢ヤ好みの雰囲気。自分で見つけた情報のないラインを登れたことが嬉しい。

ー記録ー

 2月18日、坂巻温泉に駐車してから夜道をトボトボ歩く。明日の夕方以降、寒冷前線の通過で荒れ模様。何としても明日1日で終わらせたい。西尾根とりつきに幕営して3時間弱眠った。

 2月19日、2時半発。スピード勝負なので、泊まり装備は全てテントにデポ。今日1日で完登するか、中途引き返しか、五分五分といったところだろう。なにせルートの情報がなく、難易度もわからないために見通しが立たない。先行きが見えないストレスと高揚感がないまぜになっている。田代池付近でトレースを外れて左岸尾根にとりつくが、ワカンでの湿雪ラッセルが重く、先が思いやられる。かと思えば、尾根に出ると雪は少なく、アイゼンに履き替えて岩混じりの地肌を歩く場所が長い。

 時折現れる岩場を左右によけながら2時間の急登をこなして2009mピークに出る。雪は次第に多くなるが、ラッセルというほどではない。一度緩くなった尾根は再び傾斜を取り戻し、樹林帯の中を見上げるような登りになる。最初に出くわした岩場は左から木登りで越えるが、苔むした残置スリングを見て、志を同じくする人の存在を感じる。人跡稀なルート上で残置を見つけると、懐かしい旧友に出会ったような嬉しさを感じるのは私だけだろうか。さらに左の雪のルンゼ状からまき登るが、岩混じりの草付きに出る。傾斜も強いのでK岡リードでロープを出す。凍った草付きにWアックスを決めてよじ登り、密薮でピッチを切る。フォローを迎えてからひどい藪漕ぎを少し耐えると、ようやく雪稜らしい風情となる。岩と木をよじ登り、キノコ雪の上に這い上がり、泥臭い登りをこなして2360mピークの手前に出る。稜線上を忠実に詰めると面倒なクライムダウンが入りそうなので、右からのトラバースで2360mピークを巻く。雪の急登をこなしてから雪稜を進み、次なる2450mピーク。直上すると岩壁に出るため、右のルンゼ状に入り込む。ラストは傾斜の強い雪壁で、後輩がいればビレイ必至だろう。同期二人だとこういう場所をノーザイル突破できるのが強い。再び雪の急登をこなすが、雪が崩れて薮が露出しきつい。

↑P2450mへの登り。左の岩壁を避けて右のルンゼに突入する。

 支尾根と合流し、2520mピークで樹林帯から抜け出す。ようやく山頂が視野に入るが、良いペースを保ってきただけに、既に二人ともかなりヘロヘロ。岩場のクライムダウンを交えて2550mピークに出ると、細い岩のリッジに出る。水平でランナーも取りにくいためノーザイルで行くが、中々緊張した。後輩がいたらかなり怖い場所だったが、ここも同期パーティーの恩恵を受ける。

↑P2550mからP2520mを振り返る。

 八右衛門沢の頭へ最後の登り。ここさえ抜ければあとは歩きだが、ガスの向こうに威圧的な岩壁が姿を現す。これがラスボスか…。ヨレた二人に大きなプレッシャーがかかる。左のブッシュ混じりの急登や岩壁中央の凹角など、直登ルートについて二人で意見を交わすが、右にトラバースして支尾根に出た方が緩そうなのでひとまず様子を見てみる。岩壁基部を右にトラバースすると、案の定雪とブッシュに覆われた支尾根に飛び出し、これを登り切って八右衛門沢の頭へトップアウト。ここも後輩がいるとノーザイルでは不安なところ。ルーファイでラスボスを片付け、ようやくプレッシャーから解放される。

 八右衛門沢の頭から少し下り、山頂まで最後の登り。風は冷たく、展望はない。二人とも疲労にふらつきながら進む。雪の斜面に足を蹴り込んだ途端に左の雪庇が大きな音を立てて崩壊した。巻き込まれる位置にはいないよう気をつけていたが、少し近づき過ぎたことを反省。山頂に着いて疲労感溢れる笑みが溢れる。

 西尾根を下降するが、トレースはバッチリで岩場にはフィックスもあり、難なくクライムダウンできた。西尾根単体ではもはや魅力に乏しいが、下降路としてはありがたい。2時間でとりつきまで下り、テントを撤収。釜トンネルを潜って坂巻温泉に戻り、平湯の温泉でのびていた。帰洛後に飲んだIPAのうまさや…。

 今回は同期パーティーによる迅速な行動から受けた恩恵が非常に大きかった。あと一人でもメンバーが多ければ、悪天に捕まっていた可能性もあった。

↑八右衛門沢 左岸尾根 概念図

コメント